人事・労務情報

01
16

「能力評価」の限界

 

古典的な職能資格制度においては、能力評価というものがあります。等級ごと(および職種ごと)に「能力要件」が定められており、その要件に該当するかどうかを毎年評価するというものです。古典的と言いましたが、今でも多くの会社で実施されています。

 

最近では、コンピテンシーの概念を取り込んで、保有能力ではなく行動要件で記述するなどの工夫が見られますが、私はこの能力評価については少し否定的に見ています。その理由は以下の通りです。

 

 

(1)『毎年評価する』ことの効果が疑問

 

現実問題として、能力評価というのはかなり固定化します。それは当然のことで、毎年能力レベルが大きく変動するということはありえないわけですから、「評価が高い人はいつも高く、低い人はいつも低い」という状況が発生します。すると、社員の側はフィードバックを受けても特に「気づき」が得られるわけではなく、動機付けにもモチベーション向上にもつながらないということになります。典型的な評価の形骸化、セレモニー化です。

 

(2)『等級別要件』を基準に評価することの矛盾

 

多くの場合、等級別に定められた要件と照らし合わせて、A評価とかB評価とかの判定をしていきますが、同一等級の人を全く同じ基準で評価するわけですから普通に考えると以下のような傾向が出るはずです。
 ①上の等級への昇格候補者が最も評価が高い
 ②昇格したばかりの人は評価が低い
下の等級でいい評価をとっていた人も、昇格したとたんに急に「評価基準のレベルが上がる」わけで、辛い評価にならなければおかしいわけです。しかし、それは一般の感覚からいって自然ではありませんし、現実はそういう評価になりません。つまり、ほとんどの評価者は能力評価基準のロジックを無視して評価を行っているのです。

 

(3)みんなを同一の基準で評価することへの疑問

 

職種別くらいには分けるとしても、「モデル社員像」というのを決めて、みんながそれに近づいていくことを求めるというのが能力評価の基本的な考え方です。この変化の時代、多様化の時代、価値創造が求められる時代に合致しているとは言えないでしょう。

 

 

以上、否定的なことばかり言いましたが、『等級別要件』が個人の行動目標になるなど、育成効果を有するということもありますので、全く不要と考えているわけではありません。ただ、人事施策としてきちんと機能させるためには少し工夫を加える必要があると思います。具体的には、毎年の昇給評価・賞与評価に使うのではなく、「昇格(降格)判定における基準」として使っていくのが最も望ましいのではないかというのが私の考えです。