人事・労務情報

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「残業=悪」の図式は成り立つのか?

 

改めて言うまでもなく、「残業問題」は現在の人事・労務課題の上位に位置づき、「いかに残業を削減していくか」は多くの会社にとっての最優先事項になっています。

 

特に積極的に取り組んでいる会社では、「残業は会社にとっても社員にとっても悪いこと。残業時間はゼロを目指す」との基本方針に基づいて、あの手この手で施策を打ち出しているケースもあります。

 

このこと自体は、いわゆる「ホワイト企業的アプローチ」として歓迎されるべきと思いますが、それでは社会全体で「残業=悪」という図式が成り立つかと言えば、話はそう簡単ではありません

 

 

例えば、もしほとんどの会社で残業ゼロとなったら、どのようなことが起こるでしょうか。

 

忘れてはならないのは、現在の日本の労働構造が、「正社員が中心で、業務の繁閑には残業で対応(=残業を労働力のバッファーとする)ことにより、簡単には解雇されない終身雇用体制が維持されている」ということです。

 

残業ゼロということは、労働力のバッファーが期待できないわけですから、業務の繁閑に対しては雇用の流動性を高めてマンパワーの調整をしていくしかありません

具体的には、

①業務都合での解雇をしやすくする。

②短期間での有期雇用(契約社員、パート等)、派遣社員の割合を増やして対応する。

といった方法が考えられます。

しかし、①が困難なのはもちろん、②を強化していくことも昨今の法令や労働行政の動きと矛盾し、自由な運用をすることはどんどん難しくなっているのが現状です。

 

 

この点だけを考えても、残業が全面的に否定される社会というのは、現実的には成立しえないと言えるのではないでしょうか(他にも、社員の収入減の問題、突発的業務への対応等の切実なハードルが存在します・・・)。

 

もちろん、過労死や過労自殺につながるような長時間労働や、生産性の低い残業は削減していかなければなりませんし、「残業ゼロ」を実現できる会社があればそれが理想的ですが、社会全体で見た場合、「残業は、日本の労働構造を考えるとある程度は必要なもの」というのが現実であるようです。

 

本当に根の深い課題だと思います。